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東京高等裁判所 昭和35年(う)2677号 判決

被告人 長谷川敬三

主文

本件控訴を棄却する。

当審の未決勾留日数中五十日を原判決の本刑に算入する。

理由

弁護人の控訴趣意一及び二について。

原判決判示事実は、原判決挙示の証拠により優にこれを肯認することができる。所論は、まず、原判決が、判示パチンコ玉三百個のうちに正当取得の約二百十個を含むことを認定しながら、右三百個と引替えた煙草「いこい」十個全部につき詐欺罪の成立を認めたのは理由のくいちがいに該当する旨主張するけれども、原判決は右三百個中に不正取得分「少くとも約九十個」と判示しているのであつて、これは右三百個を正当取得分と不正取得分とに明確に区分しがたい状況にあり、右三百個全部が正当に取得したものであるように装い判示たばこ十個と引きかえたことを判示したもので、かゝる場合には判示たばこ十個全部につき詐欺罪の成立を認めるを相当とするから、原判決には、所論のように、理由のくいちがいがあるということはできない。また、所論は、本件のようなパチンコ玉の不正取得行為は窃盗罪に該当するから、右パチンコ玉と引替にたばこを取得した行為は、賍物の事後処分であつて犯罪を構成しない旨主張し、明治四十四年六月八日の大審院判例を引用しているのであるが、窃取したパチンコ玉を正当に取得した玉の如く装い人を欺罔し、たばこを騙取することは、新たな法益を侵害する行為で、これを目して単なる賍物の事後処分に過ぎないものということはできない。右引用の判例は最高裁判所判決(最高裁判所昭和二二年(れ)第一〇五号、同二三年四月七日大法廷判決、同裁判所刑事判例集二巻四号二九八頁)によつて変更せられたものというべく、本件のような場合、窃盗罪の外に詐欺罪が成立すること明らかであるから、所論は採るを得ない。更に記録を精査しても原判決に所論のような違法はない。各論旨は理由がない。

(その余の判決理由は省略する。)

(裁判官 岩田誠 司波実 秋葉雄治)

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